第1編第2章ー政治的目的とその達成手段(1)

この章は大きく3つに分かれている。

(1)政治的目的を達成するための戦争の目標について
(2)それを達成するための戦争の手段は何か
(3)敵の戦闘力の撃滅の重要度の評価



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■(1)戦争の目標について

 戦争が政治的目的の正当な手段となる条件を考える。この時、適切な戦争の目標は何かを考えればいいだろう。そうなると、この戦争の目標は様々な政治的目的や状況によって異なるためひとまとめにして決められるものではないということに気づくはずだ。


 だが、無限にあるとしても考察できないというものでもない。戦争論では、まず概念上の戦争と現実の戦争の区分がはっきりと示されている(8編2章)。そして、現実の戦争も概念に近づくものとそれからは程遠いもの、この2つの方向性の違いを戦争前にしっかり把握する必要性が強調されている(8編3章A)。


ここでは8編5章の記事で利用した表(上図)を見ながら話を進めたい。





●「概念上の戦争」における戦争の目標

 それは、敵の抵抗力を完全に破壊することだった。「概念上の戦争」は様々な仮定をもとに考え出されたものであり、現実ではない。どちらも確実にこの目標に向かって行動し、戦争は止まることなく極限状態まで突き進む。それがいかに厳しいものであっても、戦争が無制限なものになり極限状態まで進行することが分かっている。つまり事態がどう進展するか確実に読める。そのため、概念上の戦争では政治が事態の方向性を決める必要などなくなってしまう(1編1章23節)。





●概念に非常に接近する「現実の戦争」における戦争の目標

  図では、物理的・精神的にとても優位な立場にあるか、積極的精神・冒険を実行できる性向を有している場合にあたる(8編5章)。1編では動機・緊張の強い場合。8編3章Aでは「概念上の戦争」に注目した場合の戦争の見通しや各戦闘の結果をどう見るかという部分にあたるだろう。それは、途中の成果には意味がなく、最終的な(主要な)決戦における失敗が今までの全ての成果をダメにしてしまうような戦争だった。



 「概念上の戦争」で想定されている両者は抽象的な存在だ。しかし、「現実の戦争」では条件がより具体的になってくる。敵の抵抗力をより具体的にし、その中でも非常に普遍的な要素を3つ導入してみよう。それは戦闘力・国土・敵の意志である。概念に接近する「現実の戦争」では、この3つの要素に対しどのように行動しなければならないだろうか。



1. 戦闘力(軍事力)・・・敵が闘争を続けられない状態にする
2. 国土・・・占領(新しい戦闘力の形勢を防ぐため)
3. 敵の意志・・・敵(同盟国を含む)に講和条約を締結させ屈服させる。ただし、「現実の戦争」の2つの方向性のうち、概念から遠ざかっていく戦争では講和の可能性がない場合も考えられる。「戦争における3つの主要な傾向(知性、感情、蓋然性・偶然性)」のうち政治の領域である「知性の挫折」という表現で講和条約で意味していた範囲を広げるべきかもしれない(1編1章28節)。そもそもその集団の知性が打ち出している政治的目的が有効なら、それはその集団の感情に支持されたものだ(1編1章11節)。また、概念から遠ざかっていくような戦争では、小さな政治的目的を捨てることも簡単だろう(1編1章11節)。この場合、政治的目的というよりも、「アイデアの実験・検証・試み」というような表現の方がしっくりくるものかもしれない。



【進行パターン】(様々なパターンがあり確定的に決められるものではない)
●1→2→3[基本的な流れ]
●(1→2→1→2・・・)→3[実際には、戦闘力の壊滅と敵国土の占領は交互に進むものだ。]
●2→2→2→・・・(敵国土の大部分か全部の占領)→3?

 1812年のナポレオンによるロシア遠征のように敵がどんどん国土の奥深くへ撤退するような場合、大部分を占領しても敵の戦闘力を壊滅していない場合がある。ナポレオンには1の要素が欠けていたため、ロシアの「知性、政治」を屈服できなかった訳だ。





●抵抗力を完全に奪えない戦争における戦争の目標

 上図でみたように、物理的・精神的に大きな優位になく、敵を完全に倒そうという積極的精神もない場合は戦争の目標が制約されたものになる。クラウゼヴィッツは抵抗力を完全に奪えない戦争を攻撃的な方向と防御的な方向の2つに分けて考えている。1編2章で列挙されている戦争の様々な目標はどちらかというと攻撃的な方向(積極的意図)に重点が置かれているようにみえるが防御的な方向(消極的意図)の考察部分にも同じように注目したほうが戦争論を把握しやすい。



 下図は先程の図に2つの視点を追加したものだ。政治的目的は概念上の戦争に近づくものであっても、遠ざかるものであっても戦争を貫いている。しかし、概念からの距離という戦争内部の事情は、政治の表面化の程度に影響を与える(1編1章11,23-26)。政治と戦争内部の事情との間には密接な関連がある。

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 さて、抵抗力を完全に奪えない戦争(「制約された目標」の場合)における「戦争の目標」を考察する部分にきた。


 「概念上の戦争」では、相手の抵抗力をしっかりと把握できることが仮定されていた。そのため、明白な力の差があり精神的な力でも穴埋めが出来ないならば概念上は戦争など選択しないだろう。しかし現実には明白な差があり不利なのに戦争を選択し、さらに攻撃という闘争形式を選択する場合がある。つまり、戦争を選択するかどうか、攻撃・防御どちらを選択するかは戦力のバランスではなく、将来に対する評価により決定される(8編5章、上図参照)。


 ということは、将来に対する評価を左右させることによって敵を講和(あるいは政治的目的の挫折)に誘導することも可能なはずだ。この将来に対する評価は大きく2つに分けられる。勝算と犠牲の2つだ。


1.勝算を悪化させる(主に戦争の内部事情を考慮した場合)

発生する事態には何通りものパターンがあるだろう。蓋然性の高いパターンは何か。どのパターンが将来発生すると敵に「勝てそうにない」と判断させることができるか。その具体的方法についての考察。8編5章をもとにした上の図ではどのパターンが発生する蓋然性が高いか判断できる場合だ。

 下の表のうち、政治的関係を変化させる方法に対する評価はとても高いものとなっている。

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2.政治的目的と払うべき犠牲とのバランスの悪化(犠牲=数量+持続時間)

8編5章をもとにした上の図では、どのパターンが発生する蓋然性が高いか判断できない場合にあたる。この場合、政治的目的をどう評価するかが重要だ。現実の戦争では将来を推測できない場合が多いだろう。講和に向かう動機としてはこちらのほうが一般的なものだ。1編2章で考察されている戦争の目標は、あくまで一般論としてという但し書きが付けられている。そしてその目標はどちらかというと攻撃的な方向(積極的意図)のものが多い。しかし、この部分で戦争論でも重要な防御の考察が行われる。ポイントは闘争の持続時間と防御の関係だ。

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純粋な抵抗でも敵の政治的目的を挫折させるために、戦闘力を使用することが含まれている。




次回は戦争の手段に関してです。
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by Naotaka_Uzawa | 2010-09-12 14:49 | クラウゼヴィッツ:戦争論読解